【書評】『中央銀行が終わる日』ー政府発行の通貨・ビットコイン、それぞれの欠陥は?

非常に良い本でした。

本のタイトル自体は非常に前衛的ですが、現行の通貨で現在起きている諸問題、そして近年新しく誕生したビットコインの紹介と、同じくその諸問題を冷静に整理されています。
決してビットコインを肯定するわけではなく、経済学者の視点で、冷静にビットコインを指摘されているので価値がある書籍です。
知っての通り、経済誌で、ビットコインにちょっとコメントしてみようとするエコノミストなどは、大抵ビットコインに関する基本的な勉強が足りていないのに、コメントしているから、意味不明なことを言っているケースが多いのですが、この本の著者は決してそんなことはありません。

かつ、著書のなかでは、ビットコインの基本的な仕組みについても、ページを割いて、丁寧に説明していますので、ビットコインについてはじめて読む本としても良いはずです。

このエントリーでは、著書のなかで、ビットコインに関する指摘で鋭いと感じたものの、いくつかに触れたいと思います。

ビットコインの価値があるのは、マイニングに電気代がかかるから?

しばしば、POS型のアルトコインの擁護者と論争になることが、多いですが、ビットコインの新規供給には、電気代がかかっていることを価値の源泉として指摘しています。
これについてよくある反論は、「原価300円の素材のアクセサリーが市場では1000円で取引されていることもある。逆に原価1000円のアクセサリーだからといって、1000円で買う理由にはならない。だから新規供給に対して電気代のコストについては、関係ない。」と指摘します。
ですが、これは、個別の商品を販売する際の付加価値についての話を混ぜているし、通貨の健全性についての議論としては、論点がずれているように思います。
アクセサリーの点について言えば、二次流通が起こりマーケットが形成されることを前提としていませんし、もし二次流通するなら使用感などによって、減価償却もされます。

僕は、基本的に、ビットコインの価値の源泉は、電気代にコストがかかっているということを支持しています。

丁寧に考えてみます。
現在、新規に供給されるビットコインは、マイニングに1BTCあたり450-600ドルあたりが損益分岐点と推測されています。
マイニング事業者たちは、これだけのコストを払って、ビットコインを採掘して、市場に供給しています。
マイニング事業者たちも会社ですので、採掘コスト500ドルがかかったコインを400ドルでは売りたくありません。つまり、この場合、500ドル以下では、新規で市場に供給される可能性は少ないといえます。
そして、500ドルで発掘されたコインを、600ドルで購入した人も、それを600ドル以下で売りたいとは、あまり思いません。
このように市場原理が働いて、市場価格が採掘原価以下、つまりマイナスプレミアムがつきにくいとはいえるでしょう。
もちろん、価格を決めるのは、あくまで市場ですので、将来のビットコインの価格が、現在の採掘コストを下回る可能性もないとは言い切れません。
ですが、市場原理として、それ以下にはなりにくい働きはあるといえます。

ビットコインは、法定通貨のように国債と裏付けされていたり、かつてのように金と兌換されているというようなことはありません。
ビットコインは、ある意味、256ビットの整数値に価値がついているだけでもあって、これは非常に新規性があることで、だからこそ、議論が複雑化するのだと思いますが、いずれにせよ、何物にも兌換されずに文字列に価値がついているだけならば、ビットコインの市場価格をもっとも左右する要素は、コインの新規供給に価値注入されているかどうかというのは、重要な要素だと思います。

岩村氏は、ヤップ島という島で、20世紀はじめ頃まで、利用されていた石貨を例えに出しています。

「その第一は、石貨の大きなものは動かすことができないが、それがだれのものかは島民たちみんなが知っている、だから貨幣として使える、という点です。これはP2Pで共有する仮想台帳というビットコインの性質に通じるものがあります。  そして、第二は、石貨になぜ価値があるのかという点です。石貨に貨幣としての価値があるのは、まずは、それが一定の約束事に沿って作られているからでしょう。丸いことや表面が美しいことも重要なはずです。でも、最も重要なことは、それを作って運んでくるのに相当の作業量がかかること、製造作業や輸送作業さらには輸送途上の危険防止への苦労など、さまざまなコストがかかっていることでしょう。これは、ビットコインに価値があるという理由と同じではないでしょうか。ビットコインに価値があるのは、それを作り出すのにPOWつまりプルーフ・オブ・ワークが要求されるからです。それは、石貨に価値がある理由、つまり遠い島から運んでくるのに費用と苦労を要したからだという理由、その理由と同じです。石貨の重さと原産地の遠さは「石貨を得るのに必要な作業の証明」であり、つまりは石貨のPOWなのです。石貨はビットコインと同様にPOWにより価値を生じているというわけです。 」(『中央銀行が終わる日―ビットコインと通貨の未来―(新潮選書)』(岩村 充 著)より)

また、POWのように電気代供給による価値注入がない通貨に関して、岩村氏はこうも触れています。

「ちなみに、XRPが「空中から無対価で作り出される」という点を奇異に感じる必要はありません。無対価で当事者間でのみ通用する「通貨」を作ってしまうという点では、前にも言及した国際機関IMF提供のSDRという大先輩がいます。SDRは良くてXRPがいけないという理由はありません。」(『中央銀行が終わる日―ビットコインと通貨の未来―(新潮選書)』(岩村 充 著)より)

SDR(特別引出権)は、IMF加盟国の準備資産を補完する手段として、IMFが1969年に創設した国際準備資産です。
しかし、空気から生まれたSDRが価値が、多くの人に価値があると認識されているのは、すなわちIMFへの信頼や権威性に由来します。

これは言ってしまえば、「空中から無対価で作り出される」という通貨の発行体には、多くの人に幻想を与える力が必要だといえます。
多くの人に幻想を与える力を今、最も有しているのは、言うまでもなく、各国の政府ですが、RIPPLEが幻想を多くの人に与え続けることができるかは僕には、分かりません。

しかし、これだけ価値注入がされて、供給されるビットコインが仮想通貨と呼ばれるのも変な話で、価値説明が名目上のものだけになってしまっている各国中央銀行発行の通貨のほうが、余程仮想通貨だと思います。

ビットコインの供給スケジュールの設計は、欠陥であるという指摘

しかし、実際のところ、ビットコインにも欠陥は多いです。
著者は、ビットコインの半減期の設計について、このように意見しています。

「こうした硬直した供給スケジュールの下では、ビットコインに対する人気つまり需要が少しでも変化すると、その価格は大きく揺れ動くことになります。ビットコインが注目を浴びて以来の価格急上昇と急下落の繰り返しは、その硬直的な供給スケジュールに原因があると考えて良いように思われます。これでは、通貨としては欠陥品であると言うほかありません。」(『中央銀行が終わる日―ビットコインと通貨の未来―(新潮選書)』(岩村 充 著)より)

 

「ビットコインの生成スピードを固定しても、たとえば現在の生成スピードである十分間つまり一ブロックの形成ごとに二十五BTCという速度自体は変えなくても、ブロックチェーンが延伸していった最後の落ち着き先のビットコイン存在量を一定量たとえば二千百万BTCでとどめて動かなくする方法なんて、少し考えれば思いつくはずだからです。どうすればよいでしょうか。  その方法は、一ブロックが形成されるごとに、既に生成されてアドレスに紐付けられているビットコインの残高を二千百万分の二十五の割合で再計算して減額するようプロトコルを作ればよいのです。」(『中央銀行が終わる日―ビットコインと通貨の未来―(新潮選書)』(岩村 充 著)より)

著者は、金融契約の本質は、今日の購買力と将来の購買力を交換することを説明し、4年に一度の半減期は、ビットコインのマイナーの参加や離脱を促し、マイニングの限界原価の予測を難しくしていることを指摘されています。
限界原価の予測がむずかしくなっているということは、金融契約の本質である、現在の購買力と、将来の購買力の交換を、合理的な方法で予測しづらくなってて、通貨としては、成立しえないということも説明しています。
これは、基本的に同意で、この点からも、ビットコインは決済通貨としては不向きであり、スケーラビリティが解決し、ライトニングネットワークが実装されたとしても、デジタルゴールドという側面が多いのではと、僕は思っています。

また、ビットコインの設計上、ビットコインの総量は固定されていて、希少性が担保されている設計について、その価値分配は、先行参加者が優位になることは否めません。
この点も通貨としての欠点として指摘されています。

著書のなかでは、他にも鋭い指摘が多く、全てを取り上げれば、それだけでブログ記事をもう3、4本書けそうな内容で、ビットコイナーはマストリードの本だと思います。

エントリーの冒頭でも書いたように、ビットコインの基本的な設計についても丁寧に説明されているので、ビットコインをはじめて勉強しようとしている人が選ぶ本としても良いでしょう。

この本を読むと、ビットコインの世界は、市場原理による経済学的視点と、コンピュータサイエンスの視点双方から考えなければならず、改めて非常に面白い世界だと認識します。

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