衰退する日本経済と仮想通貨をテーマに描いた物語。アンダーグラウンド・マーケット。

オリンピック前、2018年前、日本は、少子高齢化による労働力の減少のため、移民の受け入れを始め、東京には、外国人が、溢れるようになる。

また、2020年に開催されるオリンピックを間近に控え、予算不足の政府は、増税をし、若者を始めとした下層労働者たちの生活水準は、先進国とはいえないものに、引き下がった。

そんな、いつかは来るだろう日本の未来を舞台として、生活の苦しい彼らや、アンダーグラウンドな人間が、仮想通貨を、課税を回避する裏経済に利用する、というのが、『アンダーグラウンド・マーケット』という小説です。

 

この小説で利用されている仮想通貨は、ビットコインのような非中央集権的な仮想通貨(暗号通貨)ではなく、発行主体が存在する、N(エヌ)円という仮想通貨です。

この発行企業は、本社が、シンガポールにある企業という設定で、そういった仮想通貨が、平気で、地下経済で野放しにされているという点は、現実味に欠けますが、フィクションなので、そういったものだと割りきるしかないでしょう。

主人公は、生活苦のフリーのエンジニアで、個人店舗や、中小企業に、仮想通貨の決済システムを導入する仕事を請負うことを生業にしています。

このN円を使っている経済圏では、消費税、所得税、法人税もかからないというのが、売りだ。 N円と呼ばれる仮想通貨は、法定通貨である日本円と、一応ペッグされているそうですが、店舗で買い物をする場合には、法定通貨の日本円の価格より、割引で商品を買えることが多いらしい。 その売上分の税金は、課税されないとすれば、そのようになるのは、当然です。 本書の冒頭が、作品の世界観を簡潔に表しています。

「中華系の〈アイペイペイ〉やインド系の〈バンキッシュ〉など、アジア圏で仮想通貨の取引所を運営していた企業が日本円に連動したデジタル仮想通貨〝N円〟のサービスをはじめると、移民間での費用の支払いや屋台での飲食費、生活雑貨、食料品の仕入れがあっという間にN円に置き換わった。  取引の大部分で消費税をとらない地下経済は、日本人にも影響を及ぼした。  派遣会社を経営していた経済学者が唱え、実行され始めた〝公平な税制〟のせいだ。法人税、所得税、消費税まで、税と名のつくものを片っ端から同率にする税制改革は、オリンピックを控えて莫大な投資を必要としていた日本経済を活性化させたという。実際のところ景気は良くなっているのだろう。だが、大学や専門学校を出たときに就職に失敗した俺や鎌田のような就職難民にその恩恵は届かない。少なくない若者が地下経済に加わる道を選んでいる。」(『アンダーグラウンド・マーケット (朝日文庫)』(藤井 太洋 著)より)

もちろん、この作品は、フィクションでしかないのですが、普段から、暗号通貨などに興味を持っている人間としては、面白かったです。

実際、暗号通貨(仮想通貨)が、普及した世界では、こういった地下経済みたいなものが出来る可能性も、あり得ない話ではありません。

ビットコインを使って、お店で商品を買ったりする場合、消費税は、当然課税されるレギュレーションになるでしょうが、今後、様々な仮想通貨や、トークンが、交換価値を持つ未来が、やってきます。

今は、カウンターパーティーのようなプロトコルを使えば、個人でもトークンを発行することが出来ます。

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すると、例えば、有名ブロガーのような人がトークンを発行して、それに価値がつき、一部で、商品購入に受け入れされたり、サービスを受けることが出来るようになることも、十分考えられるでしょう。

そのとき、中央政府は、それら全ての経済圏に対し、課税が出来るのかというと、その徴税コストは、あまりに大きいといえます。

そうなった時、この小説の世界観のように、大企業をはじめとした中心経済だけから、課税をして、正社員でもなく、社会的信用が少ない主人公のような人間からの徴税を、政府が諦めるということも、未来もなくはないでしょう。

こういったテーマは、ビットコインなどの暗号通貨、仮想通貨に対するブラックなイメージを世間に助長してしまいそうですが、フィクションの小説としては、面白かったです。

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