ビジネス・社会考察、その他

世界の主要企業はなぜブロックチェーンに関連をする特許を取得し、企業ごとにどのような特許を取得しているのか。

d10n Labでは、ゆりお(https://twitter.com/yurwo)さんの寄稿によるブロックチェーン関連技術の特許出願状況に関するレポートを配信しました。

そもそもの特許の前提、各企業が何故特許を取得をするのか、および各企業が取得するブロックチェーン関連の特許事例が非常に網羅的にまとめられていて参考になります。

前提

ブロックチェーン関連の特許の出願・取得が増えています。
今回のレポートではブロックチェーン関連でどのような特許がどの企業に取得をされているのかのと調査と、そもそも特許を取る必要はあるのかを考察します。

2018年のForbes Global 2000にリストされた世界最大の公開企業のうち、TOP10社すべてがブロックチェーンを調査しているだけでなく、少なくとも50社がビットコインに触発された技術を開発しているといいます。

ブロックチェーンの社会実装が徐々に進む中、企業による関連技術の特許出願も増えてきています。

特許出願の動向や、特許そのものについて知ることは、開発トレンドを押さえるためだけでなく、自分たちが不利益をこうむらず自由に研究開発をするために必要なことと言えます。

本稿では、なぜ特許について知る必要があるのか、特許とは何か、特許を取る必要があるのか、世界企業のブロックチェーン特許出願状況、企業ごとの具体的な出願内容についてレポートしていきます。

なぜ特許について知る必要があるのか〜水面下の特許戦争〜

2018年9月11日のTechCrunchに、次の記事が掲載されました。
「What would a blockchain patent war look like?(ブロックチェーン特許戦争とはどのようなものでしょうか?)」



この記事では、特許トロール(特許の怪物)の存在を紹介し、大企業・スタートアップ・特許トロールによる特許戦争が行われていると述べています。
それぞれのプレーヤーは、特許に対して以下のような姿勢を持っています。

大企業:利益を脅かす挑戦者に対して特許を主張することで、中核事業を守ろうとする。

スタートアップ:新技術を発明しても、イノベーションを守るための予防措置をまったく取っていないことが多い。

特許トロール:特許トロールとは、特許を利用した事業は行わず、ただ特許権を侵害している疑いのある者に特許権を行使して、巨額の賠償金やライセンス料のみを得ようとするもののこと。特許トロールは、ブロックチェーンの特許を取れるだけ取ろうとする可能性がある。

この状況は特許トロールに有利であり、産業の発展を阻害する恐れがあると記者は警告しています。そして、スタートアップやコミュニティに対し、自身のイノベーションを特定し、特許を取得することの重要性を認識するように促しています。

ところでそもそも、特許とはどのようなものなのでしょうか。
日本の特許制度・特許権を概観してみましょう。

そもそも特許とは何か、取得すべきものなのか

・特許制度とは
特許制度は、発明者に一定期間、一定の条件のもとに特許権という独占的な権利を与えて発明を保護し、発明から利益を得られるようにするものです。

そしてその発明を公開して広く利用を図ることにより、新しい技術の進歩を促進し、産業の発達に寄与しようというものです。
同じアイデアの研究に無駄な時間やお金を使うことを防いで、社会全体の効率を上げる効果もあります。

世界で最初の特許は、1421年イタリアのベネツィア共和国で建築家ブルネレスキに対して与えられました(資材運搬船から生まれる利益が3年間保証された)。この特許制度がベネツィア繁栄に重要な役割を果たしたと言います。

ちなみに米国旧特許庁の玄関には、元大統領リンカーンの「特許制度は、天才の火に利益という油を注いだ」(The patent system added the fuel of interest to the fire of genius)という言葉が刻まれています。

・特許権とは
日本において特許権は、特許法の下、特許庁管轄で管理されます。

特許庁( https://www.jpo.go.jp/indexj.htm
特許庁に特許取得が認められると、特許料を支払い続ける限り、出願から20年間(一部25年)発明が保護されます。

保護期間が過ぎると、その発明は誰でも使えるようになります。
特許を取得するのに裏付けが足りない場合、実用新案権に切り替えて出願することもあります。

・特許使用料 / 損害賠償

特許収入は印税収入・不動産収入と並び、究極の不労所得の一つと言われます。
主婦が洗濯機の糸くず取りで3億円の特許収入を得た事例もあります。

平成21年の特許庁報告書によれば、日本における特許の使用料は、売上に対して平均3.7%となっています。

一方、特許ライセンスフィーを払わず特許侵害した場合、高額の損害賠償を求められるケースもあります。

2018年6月には、日本の個人発明家がiOSのフリック入力や3D Touch機能に関してアップルを特許侵害で訴え、3億円の損害賠償を得ました。

また、日本に比べアメリカは特許侵害に厳しく、故意に侵害した場合、賠償額を三倍まで増加させる「三倍賠償」制度もあります。

・先願主義

日本の特許願の出願は先願主義です。
同じ発明をした人が二人いた場合、先に特許庁に出願した人が特許を受ける権利を有します。このため、審査請求をせずに先に特許願のみ出願するケースが多くあります。

・・・・・

ここまで日本の特許制度・特許権について見てきました。
特許侵害時の損害賠償が高額であること、また、それを利用した特許トロールが存在すること、日本の特許願は先願主義であることを考えると、自由にブロックチェーン関連の研究・開発を進めるためには、特許や実用新案の出願を念頭に置いておくべきと言えるでしょう。

ただし、登録料や維持費がそれなりにかかるため、特許による利益を確保する必要がなかったり、方針としてオープンソースで新技術を自由に利用したいと考える場合には、発明を一般公開(オープンソース化)することで、特許トロールを防ぐことができます。(一般公開されている技術は特許を取得できない)

これは筆者個人の考えですが、先行特許を調査し、自社の技術にある程度新規性があると予測できる場合は、まずは一旦特許を出願し、その後審査請求をするか取り下げるかを判断するのが効率的なやり方かもしれません。とはいえ実務に関しては弁理士に相談することをお勧めします。

海外出願の常識化

日本で取得した特許の効力は、日本国にしか及びません。

鮫島正洋氏の記事によれば、日本国内においても特許戦略の重要性が再認識され、大企業のみならず、大学やベンチャー企業なども積極的に出願を行うようになっており、多くのケースで米国・中国・韓国に特許出願をすることが常識化しつつあるとのことです。

日本から外国に出願するルートは、PCTを用いる方式(PCTルート)と、工業所有権にかかわるパリ条約による従来方式(パリルート)があります。

PCT(Patent Cooperation Treaty:特許協力条約)は、国際特許出願の手続を定めた国際条約であり、主要国は全て加盟しています。

PCTルートは、1つのPCT国際出願を行っておいてから、期限内に権利を取得したい国に手続を移行するもので、世界的にパリルートからPCTルートへの切り替えが進んでいると言います。

PCT国際出願制度の概要
http://www.jpo.go.jp/seido/s_tokkyo/kokusai1.htm

諸外国の特許庁
https://www.jpo.go.jp/kanren/others.htm

世界企業のブロックチェーン特許出願状況

世界企業によるブロックチェーン関連技術の特許出願状況は、どのようになっているでしょうか。

2018年8月下旬にIPRdaily中文网(IPRdaily.cn)が発表した「TOP100ブロックチェーン企業特許ランキング」リストを見てみます。

このレポートによれば、中国とアメリカの企業がリストの多くを占めていることがわかります。
ブロックチェーンに関連する特許を20件以上出願している企業は、36社もあります。

中国企業はTOP10のうち半数を占め、1位のAlibaba(関連会社のAnt Financial含む)は90件の公開特許出願があります。
中国の中央銀行である中国人民銀行(People’s Bank of China)は44件の出願があり5位にランクイン、巨大IT企業のテンセントが40件で8位、ECサービスのFuzamei(33.cn)が39件で9位、暗号通貨プロジェクトのVechainが38件で10位と続きます。(引用:http://www.iprdaily.cn/news_19746.html

Tech系メディアのtechnodeは、中国の特許出願は、国家戦略的なものではないかと述べています。

ブロックチェーンを含む新興技術への注力は、中国政府が作成した2016年の「第13次 5カ年計画 (2016-2020)」にも記載され、バーチャルIDや社会インフラでの利用などに言及されています。

2018年5月に中国産業情報省が発表した「2018年中国ブロックチェーン産業白書」においても、
* ブロックチェーンは今後3年以内に実体経済に広く配備され、デジタル中国の建設にとって重要なサポートをする
* ブロックチェーンは新たなプラットフォーム経済を作り出し、共有経済の新しい時代を開く
* ブロックチェーンの監督体制と標準体系が改善され、産業開発の基盤が統合される
等述べられています。

また、中国では、企業が国家・省・市レベルの知的財産管理先進企業に認定されると、レベルに応じて補助金・表彰を獲得することができるようになっており、Alibaba・Xiaomi・Huaweiなどの先進的な中国企業は、自社の研究開発を保護するための知的財産ビジネス部門を擁しています。

2008年の「国家知的財産戦略綱要」が公布されて以降、2011年からは税金面で知的財産サービスが優遇され、2014年には北京・上海・広州に知的財産専門の裁判所が開設と、制度上でも知的財産保護の整備が進んできています。

2018年の特許行政年次報告書では、世界の五大特許庁(日本/米国/欧州/韓国/中国)の
うち、中国での特許出願数は著しい右肩上がりとなっています。

これらのことから、中国企業の特許出願数の多さは、やはり中国の国家戦略であることが見て取れます。
そして特許を通して、ブロックチェーン領域においても世界的に先導的なポジションを得ようとする姿勢が伺われます。

また、ブロックチェーンの特許カテゴリ(技術セグメント)は次のようになっています。

d10n Labで配信をしたレポート全文では、業種/企業ベースで、個別の企業が取得をしているブロックチェーン関連技術の特許出願状況を見ていきます。

後半パートでは、特許出願数がAlibabaに次いで世界2位(取得数では1位)となっているIBMを中心にレポートしています。

IBMがなぜ25年間特許取得数世界1位なのか・特許とオープンソース開発をどのように共存させているか、その歴史ある知財戦略、Craig Wright(nChain)とVitalik Buterinの特許論争、VeChainや中国人民銀行が作る中国のデジタルインフラ、欧米・中国・日本企業の特許出願事例などをまとめました。

特許を通して業界に関する知見を深めることができればと思います。

目次:

vol.1
1.なぜ特許について知る必要があるのか〜水面下の特許戦争〜
2.そもそも特許とは何か、取得すべきものなのか
3.海外出願の常識化
4.世界企業のブロックチェーン特許出願状況
5.企業ごとの具体的な特許出願事例
 Alibaba

vol.2
6.欧米企業・組織の特許出願事例
 IBM(米国)
  <Freedom of Action>
  <特許ロイヤリティ・販売>
  <パテント・コモンズ / パテント・プール>
  <普通の社員も特許取得>
  <IBMのブロックチェーン関連の動き>
  <IBMの特許出願事例>
 マスターカード(米国)
 Bank of America(米国)
 WINKLEVOSS IP, LLC(米国)
 BlockStack INC.(米国)
 nChain(英国)
 ShapeShift AG(スイス)
7.中国系企業・組織の特許出願事例
 VeChain(シンガポール)
 中国人民銀行(中国)
8.日本企業・組織の特許出願事例
 bitFlyer
 みずほ銀行
 室蘭工業大学
9.まとめ・所感

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