DeFi

寄稿レポート:ブロックチェーン上で債券を発行するプロトコルのDharma Protocolを概観する。

d10nLabでは、渡邉草太(Twitter:@souta_watatata) さんに「Dharma Protocol」のレポートを寄稿していただきました。
Ethereum上の債券発行プロトコルであるDharma Protocolについて、非常に詳しく解説しています。

近年のブロックチェーン技術を活用した資金調達市場において、エクイティー(株式)に近いICOである「STO」が新しい手法として存在感を放つ一方、債券をトークン化する分散型プラットフォームとして注目を集めているのが、Dharma Protocolです。

Dharma Protocol Website :https://dharma.io/
Dharma Protocol Whitepaper :https://whitepaper.dharma.io/

Introduction

ブロックチェーン領域におけるエクイティー(株主資本)とデット(負債)

世界のエクイティー(株主資本)市場の市場規模は大きく、日本円にしておよそ約800兆円もの大きさがあります。一方で、デット(負債)市場はそれをはるかに上回る約2300兆円の市場規模を持っています。(※以下図参照)

しかし、近年のブロックチェーン技術を活用した資金調達市場では、エクイティーに近いICO・STOが新しい手法として存在感を放つ一方で、債券をトークン化し資金調達を行う、例えば社債や地方債をトークン化して発行するというようなモデルは未だ存在しません。また個人や企業がトークン化された債券資産で金融取引を行う事例もほぼ無いと言えます。以上の事実から、債券のトークン化という手法は未だ一般的ではないと言えます。このような状況に対し、債券をトークン化する分散型プラットホームを作ることで、より多様で新しい資金調達、あるいは金融取引の創出を試みているのが、Dharma Protocolです。

債券市場をブロックチェーン化することで、既存金融が抱える不透明性のリスク(例:2008年の金融危機)や、債券での資金調達・運用、クレジットデリバティブ作成にかかる様々な仲介コスト減少させることができると予想されています。当然、これまで様々なプロジェクトが債券市場をブロックチェーン化しようと取り組もうとしてきました。しかし、債券市場には非常に範囲が広く、各分野には異なる課題が存在し、そのそれぞれに対し異なるモデルでの解決策が求められるため、どのプロジェクトも限定的な影響力しか及ぼすことができていませんでした。そのため、Dharmaはそれらの多様な債券分野のプロダクトのインフラとなる、普遍的なプロトコルとして機能することを目指しています。

分散型金融と分散レンディングプロトコルの勃興

昨今、DeFiと呼ばれる言葉を耳にするようになりました。DeFiとは、Decentralized Financial System(分散型金融)のことであり、主にEthereum上で動作する分散型の金融プロトコル・アプリケーション群の総称のことです。Dharma ProtocolはDeFi領域の主要なレンディング・プロジェクトとして知られています。同様のレンディング系プロトコルではCompoundやdYdXが挙げられます。シードラウンドにおいて、Compoundは$8.2M(約9億円)、dYdXは計$12M(約13億円)の資金調達を行ったのに対し、Dharmaは先日Y CombinaterやPolychain Capital、その他複数の投資から総額$700m(約7.7億円)ほどの出資を受けています。

上記画像は、2018年の12月中にDeFiのレンディングプロトコル上で行われた取引に関するデータです。この図を見ると、Dharmaの取引量は比較的少ないということが分かります。Dharmaは調達額及び現段階での利用率で前者2つに劣りますが、しかしDeFiのレンディング系プロジェクトが大きく期待を寄せられ、進歩し始めていることが分かります。ちなみに、Dharma CEO Nadav Hollanderは元Coinbase&Googleの優秀なデベロッパーであり、Coinbase Mafiaの一人としても知られています。

本レポートでは、Dharma Protocolの事業概要や具体的な仕組み、可能性、課題を明らかにします。

概要

プロジェクト概要

Dharma Protocolは、Ethereumブロックチェーンの上のミドルウェアプロトコルであり、またレンディング・アプリケーションの基盤となるプロトコルです。そして、分散型取引所(DEX)である0xのリレイヤーに強く影響を受けたプロトコルであるという点も特徴的です(※後述)。現状では、2つのレンディング・アプリケーションがDharma Protocolで動いており、こちらのデータでは、昨年(2018年)の5月のメインネットローンチから約6000件以上のローンが行われていることが分かります。

Dharma Protocolを一言でいうと、「誰もがERC-20トークン化された債券を発行し、貸出・借入することができる、分散型レンディング・プロトコル」です。具体的には、誰でも、パーミッションレスにDharmaのスマートコントラクトを用いて、債券契約の締結・リスク評価・債券発行・債券契約の管理といった一連のプロセスを単一の中央集権的サードパーティーに頼ることなく実行できるということです。

既存の集権的レンディングサービスにおいては、お金を貸す人・借りる人同士の取引の仲介を特定の第三者機関が担うことで契約が成り立っていましたが、Dharma上では、アンダーライターやリレイヤー(※後述)と呼ばれる、手数料インセンティブによって働く2つの主体が部分的に仲介を行うことで、信用を分散化させています。そして契約の執行をスマートコントラクトで自動化しています。そのため、債券の発行・価格設定を透明化しオープンにすることで、仲介者への信用コストを下げ、したがってお金を貸したい人・借りたい人の参入障壁を下げることができます。

さらに、Dharmaはミドルウェアに位置するプロトコルであり、その上に誰でもがアプリケーションを構築することができます。したがって、それらのDharma Protoclに紐づいているアプリケーション同士、及びそれらのアプリ内の市場で流通するアセット同士は相互に互換性をもつため、大きなネットワーク効果を期待できます。

本レポートの後編では、Dharmaのネットワークがどのように拡大してくいか、ということやその他レンディングプロトコルとの比較についても触れていきます。ですがその前に、Dharma Protocolはどのようにして動作しているのかについて詳しくみていきます。この仕組みを理解することで、Dharma上で形成されるエコシステムの全体像やその他のレンディングプロトコルとの違いについてより深く考察することができます。

具体的な仕組み

それでは、Dharma Protocolの具体的なメカニズムについて見ていきます。まずはじめに、Dharmaのレンディングプロセスを説明する際に登場する用語を整理します。以下のリストをご覧ください。債券のオーダー情報を記載するデータパケットと、その橋渡しを行う複数のスマートコントラクトについてです。

Dharmaを理解するためのの用語

Name Role
Debt Order Debt Kernelコントラクトが債券取引(発行・デットの送受信)を実行するために必要な全てのデータが記載されたデータパケットで、全てのステークホルダーのサインなどが記載される
Debt Kernel 債券契約に関する全てのビジネスロジックを担うコントラクト
Terms Contract CreditorとDebtotの間で交わされる債券条件を記載するコントラクト
Repayment Router Terms Contractに返済完了を報告する際に、返済を送金するためのコントラクト

そして、Dharmaのエコシステムには、Creditor(債権者)とDebtor(債務者)と呼ばれる2種類のエンドユーザーと、Underwriter(アンダーライター)とRelayer(リレイヤー)と呼ばれる2種類のKeeper(管理人)の計4種類の主体が存在します。本稿では、それぞれ以下の呼び方で解説していきます。

Name Role
Creditor 債権者、お金を貸す。Debt Orderを選択する。
Debtor 債務者、お金を借りる。Debt Orderを作成・提出する。
Underwriters お金を借りたい人の返済能力(デフォルトリスク)を評価しRelayerに伝える(オラクルのような役割)。借り手の返済手続きをサポートする。
Relayers Underwriterによって提出されたDebt Orderに基づいて、お金を借りたい人と貸したい人をマッチングさせる(DEXのオーダブックの貸借Version)

用語の定義をしたところで、そのメカニズムを順に追っていきたいと思います。

(続きはd10nLabに入会してお読みください)

◇目次
●Introduction
・ブロックチェーン領域におけるエクイティー(株主資本)とデット(負債)
・分散型金融と分散レンディングプロトコルの勃興
●概要
プロジェクト概要
・具体的な仕組み
・Dharmaを理解するためのの用語
・レンディングプロセス
・返済とデフォルト
・0xに強い影響を受けたデザイン
●Dharma Protocolの抱える課題に関する考察
①Underwriterはトラストな主体であるという問題
②いかに利用者を増やすか
1-担保の必要性
2-分散ID/信用スコアリング
●ユースケース
・Inicial Debt Offering(IDO)/SAFT
・Non-Fungible-Tokenトークンを担保にした債券契約
・NFTトークンローンを用いた資産運用
・分散型マージン取引市場
・マイクロP2Pレンディング
●その他分散型レンディングプロトコルとの比較
・Compound
・dYdX
・MakerDAO
●Conclusion
・Dharma Protocolが成功するシナリオ
・Dharmaのトークンについて

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