暗号資産関連論文

寄稿レポート:暗号通貨評価の次のステップ 〜Burniske氏のトークン評価モデルを改良したHASH CIBモデルとは〜

d10nLabでは、ゆりおさんによる寄稿レポート「暗号通貨評価の次のステップ 〜Burniske氏のトークン評価モデルを改良したHASH CIBモデルとは〜」を配信しました。

前回配信したChris Burniske氏のトークン評価モデル解説と合わせて読んでいただくと、より理解を深められると思います。

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暗号通貨評価の次のステップ

Burniske氏のトークン評価モデルを改良したHASH CIBモデルとは

本レポートでは、ロシアの暗号通貨投資会社であるHASH CIB(HASH Crypto Investment Bank)が公開した暗号通貨評価モデル「HASH CIBモデル」を解説を加えつつご紹介します。

以下の記事にて原文をお読みいただけます。

The Next Step in Cryptoasset Valuation
https://medium.com/@HASHCIB/the-next-step-in-cryptoasset-valuation-34bade0386de

HASH CIB評価モデルは、動的な流通速度を採用し、対象期間の各年の追加的な現在実用価値を計算の主軸においていることが特徴です。
また、企業を評価する手法ではなく、銀行を評価する手法を取り入れているのも興味深い点です。

この評価モデルは、Burniske氏およびMulticoin Capitalの評価モデルの問題点を解消し、より現実的で正確な試算を可能にするとHASH CIBは言います。
レポート後半に挿入されている比較グラフを見るだけでも、これら3つのアプローチの違いが直感的にご理解いただけるかと思います。

HASH CIBとは

HASH CIBは、ロシア・モスクワに拠点を置くロシアで最初の暗号通貨投資会社です。
HASH CIB Webサイト:https://hashcib.com/
設立時期はLinkedinによれば2018年とされています。
HASH CIBは、ロシアで影響力のあるブロックチェーンテックカンパニーであるQIWI Blockchain Technologies (2016年設立)と提携しており、また、創設者のYAKOV BARINSKYは、QIWIグループでM&Aを担当していた経歴があります。
この、ブロックチェーン技術にも伝統的な投資手法にも明るいことを強みとし、これまで主にICOのリサーチ・アドバイス、トレード戦略構築などを行ってきました。

前提知識

NVT(network value to transactions)レシオ

暗号通貨ベンチャーキャピタル・PlaceholderのパートナーであるChris Burniske氏がトークンサミット2017で発表した「NVTレシオ」は、トークンの価値指標として広く知られています。
元々はWilly Woo氏がMTV比率として最初に普及させ、Dmitry Kalichkin氏がアップデートしたものです。

NVT(network value to transactions)レシオは、トランザクション量(取引量)に対するネットワーク価値の割合です。

この、相対的な指標である「NVTレシオ」と、貨幣数量説の交換方程式に基づいてChris Burniske氏とBrett Winton氏が作成した絶対的な評価アプローチを、前提知識として先に説明します。

伝統的な株式市場ではPEレシオ(price-earnings ratio / PER / 株価収益率 )が企業評価ツール・投資指標として長い間利用されてきました。
これは時価総額/純利益、もしくは株価/一株あたり利益で算出されます。

例えば、株価が5000円で、一株あたり利益が500円なら、PERは5000/500=10倍となります。
一般的には、このPERを市場平均と比較したり、同一企業の過去の数値と比較して、現在の株価が割高であるか割安であるかを判断します。

NVTは、このPERを暗号通貨に置き換えた場合の考え方であり、純利益の代わりに1日のトランザクション量(ブロックチェーンを介して送信される1日のUSD量)を使用し、以下の数式で定義されます。

NVT = ネットワーク価値(時価総額) / ブロックチェーンを介して送信される1日のトランザクション量

HASH CIBは、少なくとも現在のパブリックブロックチェーンの開発段階においては、NVTレシオはネットワーク評価ツールとして使用できないと言います。

NVTレシオは流通速度の関数に過ぎず、流通速度が異なるもの同士を比較することができないため、ネットワークを正しく評価することはできないと考えたのです。
後ほどそれを証明するシンプルな式を提示し説明します。

その後、INET汎用トークンモデルを使用して、HASH CIB、Burniske氏、MulticoinCapitalのそれぞれのアプローチで得られる結果を比較します。

交換方程式に基づいたHASH CIBの評価方法論は、Burniske氏やWinton氏のモデルとは違って、ブロックチェーン開発の全期間を(今日から無限に)対象とします。

NVTレシオはなぜネットワーク評価に使用できないのか

NVTレシオは、ネットワークの時価総額と1日のトランザクション価値の比率を表すものでした。

NVT = ネットワーク価値(時価総額) / ブロックチェーンを介して送信される1日のオンチェーントランザクションで運ばれる価値

ネットワーク価値はM(資産サイズ)と等しく、トランザクション量はTです。
これを上記の式に代入すると、
NVT = M / T
となります。

ここでのTはデイリーのオンチェーントランザクションを集計したもの(T daily)となります。

NVT = M / T daily
M = 資産サイズ
T daily = デイリーのオンチェーントランザクション量

ここでフィッシャーの交換方程式を思い出しましょう。

M*V = P*Q
M = 資産サイズ(時価総額)
V = アセットの流通速度
P = ブロッックチェーンによってプロビジョニング(提供)されるモノやサービスの価格
Q = ブロックチェーンによってプロビジョニングされるモノやサービスの量

この右辺のP*Q(ネットワーク価値)はここではブロックチェーンのトランザクション量と定義できますから、
M*V = P*Q = T annual
となります。annualは年という意味で、T annualは年間トランザクション量のことです。

この式の両辺を T annual * Vで割って変形させると、
M / T annual = 1 / V
となります。
Vはここでは年間の流通速度です。

デイリートランザクション量とNVTレシオは、非常に変動しやすい(volatile)数字となります。
そこでNVTのvolatility(変動性)を減らし滑らかにするため、Dmirty Kalichkin氏はトランザクション量の移動平均を使用することを提案しました。
分母にデイリーではなく年間のトランザクション量を使用することでも、NVTを滑らかにできます。
このNVTをNVT annual と呼びます。
これをNVT = M / T に代入すると
NVT annual = M / T annual となります。

先ほど得られた
M / T annual = 1 / V
を代入すると、以下のシンプルな式が得られます。

NVT annual = 1 / V

トランザクション量について、日平均・年平均・移動平均などどの平均を採用しても、NVTとVの逆相関関係は変わりません。
NVTが増加すればVが減少し、Vが増加すればNVTが減少します。

NVT = Const(定数) / V

それゆえ、ブロックチェーンのNVTレシオは、そのネイティブトークンの流通速度をただ1つの変数とする関数となります。

この事はいくつかの重要な問題をもたらします。

もし各トークンがそれぞれ異なる流通速度を持つとしたら、それらを比較するのにNVTレシオを使うことはできません。
さらに、同一トークンであっても、異なる開発段階にあるものを比較することができなくなります。
なぜなら流通速度は時間とともに変化するものだからです。

そうすると、一定の流通速度を持つブロックチェーンにしかNVTレシオを適用できないということになります。

NVT評価方法は、P/Eレシオ(PER)が収益性の高い企業の評価にしか使用できないのと同様に、アクティブなブロックチェーンの現在の内在価値を推定することのみに使用されるでしょう。

新しい指標・NVFT

そこで、HASH CIBは、NVTレシオの代わりにNVFT(Network Value to Future Transactions/将来のトランザクション量に対するネットワーク価値)レシオという指標を掲げています。
このコンセプトは暗号通貨をより適切に評価できるとHASH CIBは述べています。

伝統的な金融では、過去の収益よりも将来想定される収益の方に重きを置いてきました。
同様に、過去のトランザクション量よりも将来のトランザクション量を重視するNVFTを暗号通貨の評価に使用することは理にかなっています。

しかしながら、NVFTには多くの未知数が存在します。
ですから現時点ではこの理論はあくまでコンセプトとして受け取るべきでしょう。

また、NVTレシオが評価指標として不十分であるとはいえ、NVTと流通速度の比率を見ることで、NVTレシオについて合理的な判断をすることもできます。
ユーティリティトークンは、高い流通速度と低いNVTを持つべきで、この視点からユーティリティトークンを評価することもできるでしょう。

もしトークンの持ち主が毎日変わるなら、その年間流通速度は365になり、NVTは1になります。

HASH CIB評価モデル

さて、HASH CIBの絶対評価方法に焦点を当てていきましょう。

その前に、Burniske氏とWinton氏のモデルにおいて、HASH CIBが不適切と指摘した箇所を述べておきます。

Burniske氏とWinton氏のモデルが悩ましいのは、その理論が、任意に選択された将来の特定の期間のみしか考慮されていない点にあります。

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d10n Labで公開しているレポート全文ではこの後、3つの評価モデルの比較、HASH CIBモデルの詳細、HASH CIBモデルを用いた実践演習を紹介しています。

■目次
HASH CIBとは
前提知識
NVT(network value to transactions)レシオ
NVTレシオとは何か、なぜネットワーク評価に使用できないのか
新しい指標・NVFT
HASH CIB評価モデル
HASH CIBの評価手法を用いたハンズオン演習

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